クールなパイロットの偽り妻を演じます⁉~契約外の溺愛はどういうことですか?~
「ドイツに発っていた間、ずっと真白のことを考えていた」
遥さんの声で、落ち着いてきていた視界がまた潤み始める。
どうして泣かせるようなことをこの場において言うのだろう。
「真白が、今言ったこと……もう、この関係でいる必要はなくなったって」
終止符が打たれようとしている関係に覚悟を決める。
涙はもう、流れても構わない。
遥さんの言葉を真正面から受け止めるために、この涙はきっと必要で……。
「その通り、もう、偽装夫婦としての関係は必要ない。でも、俺には君が、真白が必要だ」
届いた言葉に、俯いていた顔をばっと上げる。
横に立つ遥さんは、噓偽りない真っ直ぐな目で私を見つめる。吸い込まれるかのように視線が固定される。
「今、なんて……?」
そう訊き返すだけで精一杯。
頭の中が混乱して、もらった言葉を理解できない。
遥さんは柔らかい微笑を浮かべた。
「偽装なんてつかない、本物の夫婦にならないか」
涙のダムは決壊して、前が見えないほど次々と溢れては流れていく。
「っ、うっ……私も、遥、さんと、一緒にいたい……っう」
遥さんは背を屈め、私の頬を大きな手で包み込む。
「まったく、いつまで泣くんだ」
呆れたように笑う彼の胸に、席を立って飛び込む。
遥さんは黙って両手で私を抱きしめた。