クールなパイロットの偽り妻を演じます⁉~契約外の溺愛はどういうことですか?~
「だって……っ、う」
「だって?」
「信じ、られなくて……こんな、展開……」
嗚咽して震える背中を、温かい手がさすってくれる。遥さんは「なんで」と少し笑っている。
「俺は、もう途中から真白に落ちて、いつプロポーズしようか考えていたんだぞ? 君を振り向かせようと頑張っていた。気づかなかったのか」
「そ、そんなこと、気づけるわけ……」
腕を解いた遥さんが「鈍感か」 と私の濡れた頬をつまむ。
「でも、俺がタイミングを計っていたことで不安にさせて泣かせてしまった。本当にごめん」
そう言って緩めた腕で優しく抱きしめ直す。そして、再び私を椅子に座らせ、自分は横に膝をついた。
マリッジリングのケースから、小さいほうのリングをつまみ取る。
「で、これはつけてもらえるのか、真白の返事をまだ聞けてない」
目線を合わせ、遥さんは私の答えを黙って待つ。
いつのまにか乱れていた心拍にも気づかず、今になってやっと自分の鼓動の速さに驚かされる。
遥さんを見つめ返し、左手を持ち上げた。
「お願いします」
まるで結婚式の新婦のように、遥さんからリングがはめられていくる。今度は遥さんが私に左手を差し出した。
ケースから遥さんのリングをつまみ取り、骨ばった指にゆっくりと通す。
それは神聖なる儀式のようで、気持ちが引き締まる思いだった。
互いの指に収まったマリッジリングに、顔を見合わせ笑い合う。
「真白、これから一生をかけて幸せにする。約束だ」
また懲りずに涙が浮かんできてしまったけれど、今度はとびきりの笑顔も一緒。
「大好きです、遥さん」
偽装が本物になった瞬間、新たな幸せの物語が幕を上げた。