孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
「先日のお話ですが……」
「ああ、考えてもらえたか」
「はい。申し訳ないですが、お引き受けすることはできません」
何度考えてみても理解に苦しむ話だった。
偽装結婚……。
一歩譲って、そういう話が身近にあったとしてもいい。でも、その相手に私が抜擢されることが理解できない。
これではまるで無作為抽出みたいなものだ。
「ご事情はいろいろあるかと思いますが……その相手に私を選ぶ必要はまずないと思うので、他を当たってください」
毎日誰かしらから名前を聞く高坂機長。
女子たちが放っておかない高坂機長なら、偽装妻なんて難しい交渉も喜んで引き受けてくれる女性は選べるほどいるに違いない。
ソーサーからカップを持ち上げた高坂機長は、何故だか「はぁ」とため息らしきものをついた。
「誰でもいいなら、もう話は片付いてる」
「え……?」
「三森さん、君にだから話をしたんだけど」
私の名前、知ってたんだ……。
名前すら覚えられていないだろうと思ったから驚く。高坂機長との関係はそのくらい遠いものなのだ。
「君に声をかけたのにはそれなりの訳がある」
「訳……? 訳ってなんですか」