孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
会社の用意してくれているマンションに移り住んだ方が生活が楽だろう、と。
今回はその話を使って、会社のマンションの空きが出たから引っ越すことに決めたと切り出したのだ。
祖母は良かったと言ってくれ、奈子と蒼も想像していたよりも引き留めることなく話を理解してくれた。
ふたりとも未成年とはいえ、私が思っているよりも大人の階段を上っているのだろう。
ただ、私が普段一緒に生活をしなくなる分、家事などの負担が増えることにわずかなブーイングがあったものの、それも冗談のような調子だった。
玄関先で話していると、最後の段ボールを運び終えた引越し業者のスタッフが「以上でしょうか?」と声をかけてくる。
すべて運んでもらったと返事をした。
「じゃあ、また落ち着いたら連絡するね」
玄関先で「気を付けてね」と見送ってくれる三人に別れを告げ、閉めたドアの前で胸がわずかに締め付けられる。
本当は、偽装結婚なんて幸せになれない関係を付き合ってもなんでもない職場の男性として家を出るということ。
家族がそれを知ったらショックだろうし、絶対に事実を語ることはできない。
ここに戻ってくる時は、高坂機長の偽物の妻として役目を終えた時。
その時、何事もなかったように帰ってくればひとつも心配はかけないで済む。
少し心が痛むけれど、自分の中でなんとか消化して迎えのタクシーに乗り込んだ。