クールなパイロットの偽り妻を演じます⁉~契約外の溺愛はどういうことですか?~
「大丈夫です」
ほんと間抜けだし、どんくさい。こんなに動揺を露わにする人間も珍しい。
頭をさすりながら笑顔を作ると、ドアを閉めた遥さんが足早に運転席に乗り込んできた。
「なにやってんだよ」
そんな言葉とは裏腹に、側頭部を押さえる私の手を剥がし「見せて」と確認する。
優しく触れられ、更に胸の高鳴りは加速。
「冷やしに戻るか」
「えっ、いや、大丈夫です。私、よくいろんなところぶつけて痣つくる方ですし、よくあることですから」
無駄に早口になる。
ちらりととなりの遥さんを見ると、心配そうな表情がやたら美しく目に映り私の高鳴る鼓動には逆効果。慌てて目を伏せた。
「頭は場合によっては怖いからな。もしなにかおかしかったらちゃんと診てもらった方がいい」
「ありがとうございます。たぶん、大丈夫ですので。ごめんなさい、出発しましょう」
車に乗り込むだけでこんな大騒ぎになり、もっと落ち着こうと反省する。
遥さんが出した車の中で、しばらく黙って気持ちを落ち着かせた。