クールなパイロットの偽り妻を演じます⁉~契約外の溺愛はどういうことですか?~
「このお店……名前は知ってます」
女性誌やWeb広告などで見たことがあるのだと思う。
「ブライダルリングの専門店みたいだな」
「ブライダル専門……それはそれで緊張しますね」
ぼそりとそんなことを口にした私を、遥さんふっと笑う。「入るか」と手を引いた。
初めて入るブライダルリング専門店ということもあり背筋が伸びる思いだけど、客層は同年代と見えるカップルばかり。
ハイブランドショップとはまた違った雰囲気で、こちらの方が滞在しやすい。
「ここなら選べそうか?」
「はい」
端からショーケースを見ていく。
人気シリーズや新作、企画商品、ロングセラー商品……。
ブライダルリング専門店だけあり、かなりの種類のエンゲージリングがある。
定番の大粒ダイヤもの、美しい湾曲を描いたデザイン性の高いもの、ショーケースを覗いて「うーん……」と唸る。
「これだけあると悩ましいな」
となりで一緒にショーケースの中を眺める遥さんもそんなことを呟く。
「そうですね……」
「でも、身に着けるものだから、真白の好きなデザインを選べばいい」
ふと目にした遥さんの顔を見て、意識とは別で心臓が反応する。
一瞬、なぜだか本当に彼が結婚相手で、エンゲージリングを選びに来ているような錯覚に陥りかけた。
慌ててショーケースの中に視線を落とす。
どうしてなのかはわからない。
でも、なぜだか遥さんが本物の恋人に話しかけているような、そんな姿を目にした気がしたのだ。