追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
第1話 教会での限界生活
ルビリア王国・ロマ領の教会の小さな魔法工房にて。
黒色の修道服を着た少女がテーブルの上に置かれた魔法石へ手をかざし、魔力を込めていた。
注がれた魔力によってゆっくりと赤色に発色していく魔法石。一方で、その脇にある魔力のない魔法石は灰色をしていた。
(これで七十一個。残りは二十九個だけど……もう限界)
昨夜から魔力を込め続けていたので頭はふわふわしているし、ここ数ヶ月ずっと働き詰めなので身体は疲弊していた。
気を抜いたら、すぐにでも意識は夢の世界へ飛んで行ってしまいそうだ。
目に力を込めて作業を続けていたら、勢いよく工房の扉が開かれた。扉がガンッと壁に当たった拍子に棚の上の薬品がガタガタと揺れる。
「ちょっとミア! 昨日までに魔法石の魔力補充を終わらせてって言ったのに、なんでまだできていないの? あと、朝のお茶がまだなんだけど!」
ミア・クレイことミアは入ってきた人物にハッとして、慌てて腰を折った。
「申し訳ございません。ヘルガさん」
扉の前に立っているのは、ミアより二つ年上のヘルガ・ロマだ。艶やかな赤髪に紫色の瞳を持つ彼女は、目尻を吊り上げている。
「今日は聖女候補である私のために、グランシア正教会最高位の総主教様がいらっしゃるのよ! なのに、おまえはいつまでだらけているの?」
ヘルガは悪態を吐きながら腰に手を当てた。
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