追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
夕方、総主教一行が教会に到着し、馬車から降りてくるのをミアは礼拝堂の窓から眺めていた。魔法石に魔力補充できたお陰で、礼拝堂内は色とりどりのランプの光で神秘的な空間になっていた。
改めてミアは魔法石が間に合って安堵の息を漏らす。
余談だが、ヘルガに報告したら、あからさまに面白くなさそうな顔をされた。
(私ができないと見越してあんなこと言ったんだから当然の反応ではあるわね)
ミアはヘルガに対して苦い笑みを浮かべるしかなかった。しかし、そんな彼女も総主教の前では借りてきた猫のように大人しくなっている。
肩を竦めたミアは窓から離れ、他の修道士や修道女に交じって晩餐の準備に取りかかった。
聖女候補のヘルガと総主教は礼拝堂で祈りを捧げた後に晩餐が控えている。
教会に料理人はいない。普段は料理が得意な者が調理をしているが、今夜は総主教のためにヘルガが実家から料理人を呼んできていた。
食堂のテーブルには清潔なクロスを敷き、銀のカトラリーを綺麗に並べていく。
(そろそろ祈りの時間が終わる頃だわ。晩餐の準備ができたと知らせに行かないと)
ミアは晩餐を知らせる役目を負っている。
料理人からはいつでも配膳可能だと言われたので、ヘルガたちを呼びに行った。
礼拝堂の重厚な扉を開けてみたら、予想通り祈りは終わっていた。ヘルガと総主教、そして司教の三人は聖像の前で談笑をしている。周りには総主教の護衛である聖騎士が数名控えていた。
「失礼します」
最初にミアの声に気がついたのは総主教だった。
ミアは小さく会釈をしてから口開く。
「この度はお越しいただきありがとうございます。晩餐の準備が整いました。皆様移動をお願いし……」
言葉を言い終わる前に、突然ランプが強烈な光と共にパァン!と激しい音を立てて爆発する。それは次々と爆ぜていき、ガラスの破片が雨のように降り注ぐ。
ランプの急襲により、皆顔を伏せてその場に蹲った。