追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
「この恩知らずが! 神にも近しい総主教様を傷つけるとは!」
「違います。私は何もしていません」
「なら聖女候補の私が妬ましかったのね! 私が聖女にならないよう妨害したのよ!!」
「それも違います。私は妨害なんてしてません。ランプはメンテナンス不良で爆発しただけです」
一応説明したが、二人には何を言っても逆効果だった。
「この期に及んで言い訳? 見苦しいったらないわ!!」
「わしに泥を塗るようなおまえなど置いてはおけん。破門だ!!」
唾が飛んできそうな勢いで司教に叫ばれたミアは目を剥いた。
破門はこの教会を追い出されるだけでなく、他の教会にも移れなくなってしまう。
(教会を追い出されたらどこへ行けばいいの?)
ミアは実家から教会に売られたようなものだ。帰る場所はない。
頭が真っ白になり、呆然と立ち尽くしていたら追い打ちを掛けるようにヘルガが言う。
「ロマ領内で仕事を探しても無駄よ。パパに言いつけてどこも雇えなくするから。それからおまえの通行証も発行できなくしてあげる」
通行証は隣領へ移る時に必要な証書で、なければロマ領からは出られない。あまりにもむごい仕打ちにミアはぞっとした。
ミアはやにわに路頭に迷う子羊となってしまった。
この先どうやって生きていくか。取れる選択肢は二つ。
盗人となるか、身売りして生計を立てるかのどちらかだ。当然、どちらも取りたくない。
「どうかお許しを!」
ミアは司教の袖を掴んで必死に懇願する。
「ええい、謝って済むものか。すぐに荷物をまとめて出て行け!!」
司教は袖を掴むミアを振り解き、大股で礼拝堂から出て行く。
振りほどかれた反動でミアは尻餅をついた。司教を追いかけたかったが、行く手を阻むようにヘルガが前に立つ。見下ろしてくる瞳はいつも以上に冷ややかだった。
「私たちに楯突くからこうなるのよ。ご愁傷様」
ヘルガはミアに捨て台詞を残し、踵を返していった。