追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
「私、教会を追い出されちゃった。行く当てもなくて今夜は野宿なの」
アリエスは少し考えた後、身をよじってミアの手から離れると、前足である方向を示した。それは町とは別の方角にある牧草地帯だ。
「牧草地へ行けって言ってるの? 確かに地面は柔らかいから野宿できそうだけど」
『メェ~』
アリエスはもう一度前足を突き出した。
「もっと奥へ行け? でも……」
その先は何もない。そう言おうとしたミアだったが、そのまま口をつぐんだ。
厳密に言えば牧草地の先は――ある。だがそこは領民が近寄らない場所だ。
「私にネビュラの森を行けって言っているの?」
アリエスはそうだと一鳴きする。まさかの助言にミアは緑色の目を見開いた。
ロマ領の東部には、隣国のサフィン王国と繋がるネビュラという広大な森がある。この森を抜けるのが王国へ行く最短ルートだ。にもかかわらず、越境する者は誰一人としていない。
何故ならこの森は一日中白い濃霧に覆われ、何も見えないからだ。一度入ったら出てこられない可能性が高い。その結果、サフィン王国とは迂回路での交易が盛んだった。
「ネビュラの森ねえ」