追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
ミアはアリエスの提案に思案する。実のところ、魔法が使えなくなってから一度だけ父にネビュラの森にしかない薬草を採ってくるよう言われたことがある。
今思えば、小さな子供をネビュラの森へ行かせるなんて碌な親じゃない。あの時から父はミアをお払い箱にしたかったのだろう。けれど、ミアは戻ってきた。
青い顔をした父の顔をよく覚えている。ミアが戻ってこられたのはアリエスのお陰だ。アリエスは始終ミアを勇気づけ、道案内をしてくれた。
そして彼とは別に勇気をづけてくれた存在がもう一人。さらさらとした色素の抜けた茶髪に青色の瞳をした少年が脳裏に浮かぶ。
彼とは森の中で出会った。ミアより年上でいろいろと物知りで、仲良くなった印に髪留めにしている白蝶貝をプレゼントしてくれた。
そんな少年はネビュラの森を熟知していて、どこにどんな薬草があるのか教えてくれた。
ミアは父に頼まれた薬草を採取できて喜んだ。しかし、少年は二度とここに来てはいけないと言い、ミアもそれ以降は約束を守って近づかなかった。
ミアは白蝶貝の髪留めに触れる。
(あの少年は森を熟知していたから住んでいたのかも。行けばまた会える?)
ミアの思考はどんどんネビュラの森へと傾いていく。町に残ったところで赤貧にあえぐのは火を見るより明らか。だったらあの少年に会いにネビュラの森へ行ってみてもいいかもしれない。来てはいけないと言われたけれど、事情を説明したら同情してくれるかもしれない。
ミアの心は決まった。
「私、ネビュラの森へ行くわ。案内してくれる?」
『メェ~』
任せろ、とアリエスは返事をしてくれる。
「あと、どこか休める場所があるなら連れて行って」
『メェ~』
「ふふ、頼もしいわ」
こうしてミアは、少しの希望を胸に抱いてアリエスの後ろについて行った。