追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
ネビュラの森に入る頃にはすっかり夜になっていた。相変わらず白い霧に覆われて何も見えない。一度中に入ってしまえば、昼だろうと夜だろうと関係なく視界が悪い。
夜になってから携帯用のランプはつけてはいるが、森の中では足下を照らすので精一杯。
少し不安になっていたら、アリエスがミアの顔を覗き込んでくる。
「大丈夫、進みましょう」
心配してくれているのを察してミアは笑みを作る。
「でも、ちょっぴり怖いから側を離れないで?」
『メェ~』
ミアの要望に応えるように、アリエスは先程よりも距離を詰めてゆっくりと進んでくれた。
露出した肌にしっとりとした空気が当たる。少し肌寒い。
案内されるがままどんどん奥へ進んでいくと、急にアリエスの丸い角が光り始めた。
「どうしたの?」
ミアの問いに対してアリエスは答えない。
代わりに光は強くなる。そしてそれに比例して、霧が晴れていく。前方に小さな建物が現れた。
「あれってログハウス?」
『メェ~』
角の光が収まったアリエスは、そうだと鳴く。どうやら要望に応えてくれたようだ。
(もしかして、あれは昔出会った彼の家?)
ミアは小走りでログハウスへ向かい、扉を叩く。
「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか?」
昔出会った少年が出てきてくれたらどんな反応をするだろうか。
驚くだろうか、約束を破って怒るだろうか。それともミアのことなんて忘れられているだろうか。
不安と期待が入り交じり、無意識のうちに髪留め手を伸ばす。中から返事はない。
次第に居心地が悪くなって軒先へ視線向かわせると古いのかところどころが傷んでいた。
『メェ~』