追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
キッチンストーブでお湯を沸かし、ポットとカップを温める。温まったらお湯を捨て、ポットの中にローズヒップを小さじ一杯入れる。
「心が晴れやかになるように……そうだ、あれを入れよう」
ミアが選んだのはペパーミント。爽やかな香りがするし、気持ちも落ち着かせてくれる。取り出していたらアリエスが鳴いた。
『メェ~』
何かを訴えるようにしきりに鳴くのでミアは作業を中断して首を傾げた。
「どうしたの?」
問い掛けに対してアリエスはくるりと背を向けて居室の方へと飛んで行く。
後を追えば、玄関からは見えない場所に扉があった。
扉が少しだけ開いていて、灯りが漏れている。
「こんなところに扉? というか、誰かいるの!?」
たちまち羞恥心で顔が真っ赤になる。
返事がなかったので誰もいないと思っていたが違ったようだ。
(勝手に上がり込んでお茶まで淹れようとしたことを謝らないと。だけどそうなると、今夜泊まる場所がなくなるわ。泊めてくれるか訊いて大丈夫? うう、どう考えても面の皮が厚すぎる)
ミアが頭を抱えてまごついている間にアリエスが扉を押す。
「アリエス!?」
まだ心の準備ができていないミアは非難めいた声を上げてしまう。が、目に飛び込んできた光景に思わす思考が停止した。
部屋のベッドには恐ろしいほど容姿の整った青年が横たわっている。
思わず触ってみたくなるような美しい金髪。雪のように白く、シミ一つない滑らかな肌。二十代前半だろうか。どことなく成熟しきっていない色気があり、全体的に彫りの深い顔立ちをしている。ここまでの美丈夫を見るのは生まれて初めてだ。
しばらく見惚れていたミアだったがふと、青年に違和感を覚えた。
いくらネビュラの森に人が寄りつかないとはいえ、玄関の鍵を締めないのは不用心だ。それに、ここで暮らしているのなら生活感があって然るべきなのに、ログハウスは埃まみれで清潔感の欠片もなかった。
「あのう、お兄さん」
ミアは青年に声を掛けて身体を揺する。反応なし。