追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜


 彼女が着ている修道服は聖女候補だと一目で分かる白色。精緻な刺繍が入っていて、領主の娘であるヘルガは品良く着こなしていた。が、体型がふくよかなので貫禄がある。

「もしかしてわざと遅らせてるんじゃないでしょうね?」
「いいえ、まさか」

 そんな訳ないと反論したかったが、これ以上ヘルガの神経を逆なでたくなかったのでミアはぐっと言葉を飲み込んだ。
 総主教が来ると知らされてからのヘルガは、ずっと気が立っている。というのも現在、正教会が次期聖女を誰にするか選定中だからだ。

 今のところ聖女候補はヘルガを入れて三人。
 今回は名目上ただの懇談となっているが、当然ながら選定も含まれているという。
 聖女候補は、総主教と共に礼拝堂で神に祈りを捧げなくてはならず、所作や言葉遣い、聖女としてのあり方などが審査されるらしい。

 礼拝堂は普段魔法道具のランプをつけないが、聖女や総主教などの品位の高い者が訪れる際はすべてに灯りをともすのが習わしになっている。
 それに必要なのが動力源である魔法石だった。


 ヘルガはミアの返事を聞いてくすりと嘲笑った。
「ま、そうでしょうね。だってミアは聖女の素質がないどころか、魔力があっても魔法が使えないもんねえ」
 哀れみを含んだ声で言うが、その表情は楽しげだ。
 胸にちくりと痛みが走ったミアは俯く。

(魔力があっても、私は魔法が使えない。ヘルガ様と違って魔宝石に魔力を込めるくらいしかできない)
 ヘルガは豊富な魔力があり、様々な魔法が使える上に聖女が必要な光魔法の治癒も使える。さらにこの教会があるロマ領主の娘で、品も教養もある。
 彼女の父である領主は敬虔な信者で、自分の娘を是非とも次期聖女にと考えており、ヘルガに様々な素養を叩き込んだ。

 ヘルガの方も最近はめきめきと腕を上げ、治癒の質が向上していると領内ではもっぱらの評判になっている。
「魔法が使いこなせない分、魔力関連の雑用と私のお茶汲みとして使ってあげているんだからさっさと仕事して。じゃないと伯父様に言いつけて追い出すわよ」
 伯父様とは、この教会を取り仕切る司教のことである。

 脅されたミアはヒュッと息を呑み、身体を震わせた。
(ここを追い出されたら困る。私には帰る場所がないから)

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