追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
「息はしているし、体温もある。死んでいるわけじゃないのに」
全然起きる気配のない青年に困り果てていたら、指がざらつくのに気づいた。
よく見たら、青年の顔や身体の至る所には、うっすらと埃が積もっている。
「どうなってるの?」
『メェ~』
ミアが困惑していると、アリエスが一鳴きする。
「目覚めに良い薬草茶を飲ませるの? それで起きるかしら?」
『メェ~』
「分かったわ」
アリエスが何度も薬草茶を飲ませろとせがんでくるので、ミアは台所に戻った。
ポットには先ほど入れたローズヒップが入っている。追加で清涼感が強いペパーミントを小さじ半分と、同じく爽快な香りが特徴のローズマリーをひとつまみ入れる。そしてお湯を注ぎ込んで数分間蒸らす。
蒸らし終えてカップへ注げば、目覚めに最適な一杯が完成した。お茶を人肌程度に冷ませた後、ミアは青年のいる部屋へそれを持って行く。
「香りも強いし、飲ませたら目を覚ますかな?」
ミアはティースプーンでお茶を掬い、青年の口の中へと少しずつ流し込んだ。
意識がないにもかかわらず、青年はミアが流し込んだ薬草茶を嚥下してくれる。それどころか、もっとと言っているように口が開いた。
「慌てずゆっくり飲んで」
ミアはしばらくの間、青年にお茶を飲ませる行為を続けた。そうしてカップのお茶が半分なくなった時、異変が起きる。
青年の手がぴくりと動いたのだ。続いて固く閉ざされていた瞼がゆっくりと開く。
青い瞳に長い睫毛の陰が落ちている。
「私は目覚められたのか?」
落ち着きのある重低音が口から零れた。
彼はゆっくりと上体を起こして前髪を掻き上げる。眠っている時は成熟しきっていない色気だったのに、今はその仕草だけで大人の色気が漂ってきた。
ミアはあまりの美しさに胸がドキリとした。
『メェ~!』
アリエスが大声を上げて青年に飛びつく。
突然胸に飛び込んできたアリエスを青年は抱き留めて首を傾げた。