追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
(お茶汲みはミアの仕事だったのよね)
ミアは自分と年が近いことから雑用係として使ってあげていた。
彼女は貴族の娘でもなければ富豪の娘でもないただの平民。そして魔力はあるのに魔法が使えない落ちこぼれ。
だから少しでもやりがいを感じてもらえるように、ヘルガが作る回復薬の途中までの工程を任せてあげていた。聖女候補の仕事の手伝いができるなんて非常に名誉なことだから。
ところがミアは、魔法石に何か細工をして不満と共にランプを爆発させた。本人は否定していたが、あれはやはり聖女候補の自分が妬ましかったのだと思う。
総主教は不問に付すとしたが、メンツを潰されたこちら側としてはきっちりと処分を下しておいた。
ヘルガは置かれたばかりのお茶を啜る。
「……不味いわね」
美味しいお茶が飲めないのは残念だが、それくらいは目を瞑ろう。聖女になれば王宮女官クラスの者たちがいくらでも美味しいお茶を淹れてくれる。
それに今は刃向かったミアへしっかり制裁を下せたのが気持ちいい。
「可哀想な子。足るを知るって言葉を知らないのかしら」
あんな馬鹿な真似をしなければ、これからも使ってあげたのに。
「唯一困ることがあるとすれば、回復薬かしら」
ミアがいなくなったので、これから誰に回復薬の調合を任せるか考えなくてはいけない。
ヘルガは回復薬の調合なんてしたくない。薬草には手がかぶれたり、棘で怪我をしたりする品種がある。これまで丹念に手入れをしてきた柔肌を傷つけたくなかった。
「仕方ないから他の人に任せないと。明日から人員を補填しなくちゃね」
それなら薬草園を担当しているリリーとマーガレットが適任だ。きっと大役を任されて大喜びするに違いない。
ヘルガは纏めていた髪を解いてブラシで梳かす。
「ふふふ。聖女になったら私は王族の次に身分の高い人間になる」
ヘルガは目を三日月に細めた。敬虔な信者である父とは違い、ヘルガが聖女になりたい理由はただ一つ。
聖女に付随する特権が欲しいからだ。
ヘルガはロマ領主の娘だが、地方貴族なので社交界デビューをしても良い縁談に恵まれるとは言い難い。
だが聖女になれば地方貴族の娘ではなくなる。結婚相手も引く手あまただし、伯爵以上の令息と結ばれる可能性が出てくる。
「もうすぐ私は王都で聖女として名を轟かせるわ。そしてこの国の男たちは私にひれ伏すでしょうねえ」
欲しい未来が手に届きそうなところまで来ている。嬉しくて笑いが止まらない。
ヘルガはしばらくの間、聖女になった自分へ思いを馳せるのだった。