追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜

 すると、食器棚辺りで浮遊していたアリエスがミアの胸に飛び込んでくる。ミアはアリエスを抱きしめると、優しく頭を撫でた。
 ユースはカップをテーブルに置いて居住まいを正す。
「単刀直入に訊くがミアはサフィン王国の者ではないな?」
「はい。私はルビリア王国・ロマ領の出身です」
 答えを聞いたユースはテーブルの上でトントンと指を鳴らす。どこから話すべきかを思案しているようだ。

「なら簡潔に説明しよう。精霊師とは精霊と契約し、与えられた特性を使う者を指す。もともと精霊師はサフィン王国だけに存在するが、何故かミアは精霊に選ばれたようだ」
「はあ……」
 自分が精霊師と言われてもピンとこない。首を傾げるミアに、ユースが話を続けた。

「精霊師は契約する精霊によって使える力が様々。炎で魔物を焼き尽くす者もいれば、乾いた大地に恵みの雨をもたらす者もいる。共通点があるとすれば精霊師は精霊の姿を視認でき、魔力があるのに魔法が使えない点だ。要は、契約した精霊に魔力を提供するために魔法が使えなくなる」
 ミアは目を見張った。自分は精霊師の共通点すべてに当てはまっている。
 子供の頃のミアは魔法が使えた。けれど魔力熱に掛かってからは一切使えなくなった。
(……私がアリエスと出会ったのもその頃だわ)
 ミアは全身に鳥肌が立ち、思わず自身を抱きしめた。魔法が使えなくなったのは、魔力熱のせいじゃなかった。

「だけど私は、アリエスと契約なんて交わしてないし、精霊師として力を使ったこともないのだけど」
 いくら過去を振り返ってもアリエスと精霊契約を結んだ記憶は一切ない。そして精霊師として力を使ったこともない。やはりこれはユースの思い違いではないだろうか。
 訝しむミアにユースは食い下がる。

「身体のどこかに変わった文様みたいな痣はないか? それが契約の証だ」
 ユースはミアの前に手の甲を差し出した。そこには、翼が連なり円形になった痣がうっすらとある。
「文様……あ!」
 ミアは自分にも変わった痣があるのを思い出し、右の二の腕辺りに手をやる。
 魔力熱で死の淵を彷徨い一命を取り留めた後、突然羊の角のようなくるりとした文様が刻まれていたのだ。
 ミアの反応を見てユースは頷く。
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