追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
「やはりあるんだな。精霊は一緒にいて居心地の良い――魔力の波長が合う人間を好む。だからミアはアリエスにとって最高の相手というわけだ」
「精霊師なんて言われても、私は力を使ったことなんてないですよ」
「ミアは既に精霊師としての力を発揮しているぞ」
「嘘!?」
本当に力を使った覚えのないミアは狼狽するしかない。だって炎を出したり、雨を降らせたりと明確な成果がないのだから。
「あなたは私を救ってくれた。自分の肉体が牢獄になってしまう病――魔力過眠症からね」
魔力過眠症。それは魔力量が豊富な人間のみに起こる病気で、何の前触れもなくある日突然発症する。
発症した者は急激な眠気に襲われて深い眠りにつくが最初のうちはいつもと同じ睡眠時間で目が覚める。しかし、睡眠時間は徐々に伸びていき、気づいた時には起きられなくなっているのだ。
ユースが言っていたように肉体が檻となり、魂が解放されるのは誰かに殺されるか、或いは三年後に訪れる死のみ。
未だに解明がされておらず治療薬はない。怪我や毒でもないので聖女が使う光魔法も通用しない。いわば不治の病である。
その不治の病を、ミアが治したとユースが言うのだ。そんなの到底信じられない。
「私には力なんてありません」
「ミアも見たはずだ。私の身体に埃が降り積もっていたのを。そして何をしても起きなかったのを。あなたが飲ませてくれた薬草茶、あれは大地の精霊の力が宿った特別なお茶だ。あの時に限った話じゃない。今飲んでいるお茶にも力が宿っている」
ユースはそう言ってカップのお茶を飲んだ。
「私はただお茶を淹れただけで……強いて言えば、これらの薬草はアリエスが持ってきてくれたものです」
「アリエスの特性は、ミアが作るものを介して個人の能力や状態を元に戻す、或いは最大限に引き上げる。そうだろアリエス?」
ユースが問い掛けるとアリエスは「ご明察!」と鳴いた。