追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
ミアがびっくりしている隙に、アリエスがミアの腕から飛び出し、テーブルの上に立つ。こちらを見つめてくるそのつぶらな瞳は真剣で、疑う余地はない。
ミアは俯いて膝の上に置いていた手を見つめた。
(私が精霊師なんて信じられない。でも共通点はあるし……何より、長い眠りに就いていたユースさんを目覚めさせられたんだからそうなのかも?)
そう思うと、心の奥から嬉しさが込み上げてくる。これまで魔法が使えない理由で父から捨てられ、教会ではこき使われてきた。
だからこそ新しい自分に出会えたのは嬉しい。そして何よりも特技のお茶で、誰かの役に立てることほど幸せなものはない。
ミアは再び顔を上げる。そこには先ほどまでの戸惑いも疑念もない。
「納得してくれたみたいで良かった」
ミアの表情を見てユースは破顔した。その屈託のない表情があまりにも典麗で、ミアの胸がドキンと跳ねた。
胸の高鳴りをはぐらかすように、ミアは頬にかかった髪を耳にかける。
「そう言えば、ユースさんも精霊師なんですよね? だってアリエスが見えてるから」
「私は精霊師だが……」
『バウ』
突然、ユースの言葉を遮るように低い吠え声が響く。その声と同時に室内に小さなつむじ風が起こり、窓ガラスがカタカタ揺れた。
つむじ風から姿を現したのは、尻尾の先が竜巻のように渦を巻いている狼の精霊だった。その姿は普通の狼よりも何倍も大きい。頭は天井まで届いていた。
「やあ、ルプ」
ルプと呼ばれた狼の精霊はひどく怒っていて、鼻面に皺が寄っている。これが本物の狼なら怖くて腰を抜かしているところだ。
ユースは涼しい顔でルプに話し掛ける。