追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜


 ミアには魔法道具店を営む父がいるがその関係はいいとは言えない。彼との関係が悪化したのは、ミアが十歳の時に掛かった魔力熱からだ。
 魔力熱とは体内に貯め込みすぎた魔力が暴走して引き起こる病気だ。数日間高熱が続き、下がらなければ死んでしまう。

 死の淵を彷徨いながらも何とか一命を取り留めたミアだっが、それ以降魔力はあるのに魔法が使えなくなった。
 父は店を継がせられなくなったミアに辛く当たるようになっていった。魔法道具店を営む彼にとって、魔法が使えない子供は無価値なのだ。
 かくして、ミアは十三歳の時に多額の寄付金と共に教会へ送られた。

 当然司教は喜んだ。多額の寄付もさることながら、この教会には魔力を持つ者が少なかったためである。
 この世界の魔法道具と呼ばれるすべてには動力源である魔法石が必要だ。

 一般的に石は使い切りだが質素倹約に勤しむ教会では、聖職者の魔力を補充して再利用できる特殊な魔法石が使用されている。
 魔法石に魔力を補充する作業は、体力の消耗が激しい過酷な仕事。だから親から捨てられ魔法が使えないミアはそれを任せるのに打ってつけだった。


 修道女になったミアは朝の六時から夜の九時まで毎日働かされていた。
 内容は魔力補充と薬草園の世話、回復薬づくり、そしてヘルガへ朝昼晩とお茶を届けるなど多岐にわたる。
 回復薬は多種多様な薬草と治癒の魔法で作られる。ミアは魔法が使えないので薬草を煎じるところまでを行い、仕上げをヘルガに任せていた。

 ヘルガの治癒で満たされた薬は効能が高いため、領内外で人気が高い。そのため、最近では休みもなく朝の三時から深夜まで働き詰めだ。

(今日の回復薬も作らなきゃだけど、魔法石にも魔力を込めなくちゃいけない)
 先の予定を考えたら気絶しそうだった。
 とにかく、総主教が来るのだから魔法石だけは仕上げなくては。

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