追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
「アリエス、おすすめの薬草はあったりする? そろそろユース様にお茶をお出しする時間なの」
『メェ~』
アリエスは前足を上げる。示された方向には、紫色の絨毯が敷き詰められたようなラベンダー畑があった。
「今日はラベンダーね」
早速ラベンダーを必要な分だけ摘んでから研究室へ移動する。研究室には給湯室があるのでいつもそこでお茶を淹れさせてもらっている。
まずはさっと洗ったラベンダーを茎と花に分けていく。あらかじめ温めておいたポットに紅茶とラベンダーの花を入れ、そこにお湯を注ぐ。蒸らしている間にミルクを人肌程度に温め、ホイッパーで泡立てる。
蒸らし終えたお茶をカップに注ぎ、スプーンで泡を抑えながらミルクを加える。最後にふわふわの泡を載せれば完成だ。
「ユース様は、喜んでくれるかしら?」
「ミアのお茶に喜ばない人はいない」
「ユ、ユース様!」
いつの間にか入り口にはユースが立っていた。彼の執務室からここまではそれなりに距離がある。忙しいはずの彼が足を運んでくれていることにミアは驚いた。
「申し訳ございません。もっと早くにお茶をお出しすれば良かったですね。ご足労をおかけいたしました」
「私がミアのお茶を飲みたくて仕方なかったんだ。……それと、あなたの顔が見たくて」
ぽそりとした呟きだったが、ユースの言葉はしっかりとミアに伝わっていた。
途端にミアの胸の奥が疼く。だが、自分は精霊師であれどただの平民。この国の王子であるユースに特別な感情を抱いてはいけない。
自分の感情に気づかないふりをして、ミアはお茶を飲むよう勧めた。