追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
(だけど私の魔力はほとんど残っていないわ)
体力の消耗が激しくてこれ以上続けるのは危険だ。
ミアはヘルガを一瞥した後、おずおずと尋ねた。
「ヘルガ様、私一人で作業するには限界です。手伝っていただけないでしょうか?」
ミアの悲痛な訴えを聞いたヘルガはぴくりと肩を揺らし、続いて眉を潜めた。
「なんで手伝ってあげなきゃいけないの? 自分の要領が悪いのに他人の手を借りようとするなんて、図々しいったらないわ!」
豊富な魔力を持っているはずのヘルガは回復薬でしか魔力を使わない。
聖女候補なので慈善活動で治癒を積極的に使いたいのは分かる。しかし、懇談会を成功させたいのなら、少しは協力してくれてもいいはずだ。
これまでミアはヘルガに手伝ってなんて一度も言ったことがない。それはミアがヘルガの聖女候補としての重責や、それに付随する様々なプレッシャーを慮っていたからだ。
できるだけヘルガの負担にならないよう頑張ってきた。だが、ミアにだって限界はある。
「どうかお願いします。手伝ってください!」
何度もミアが「お願いします」と頭を下げるので、とうとうヘルガは根負けした。苛立たしげに肩に掛かった赤い髪を手で払う。
「仕方ないわね。今回だけよ」
「ありがとうございます!」
ミアはぱっと顔を上げて涙目で手を合わせる。
やはりヘルガも慈悲深い聖女候補。口は悪いが手を差し伸べてくれる。
――なんて思ったのも一瞬だった。