追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
第7話 終わりの始まり
二人の聖女候補と共に王宮へ参上したヘルガは、謁見の間に通されていた。
同じ聖女候補である二人は平民出身なので、案内される度に感嘆の声を上げ、辺りを見回していた。
行儀が悪いのでヘルガは澄ました顔をしていたけれど、至る所に飾られている調度品や絵画、そして天井などの装飾はどれもが眩しかった。ヘルガの心は躍っていた。
謁見の間に続々と関係者が集まり、最後にルビリア国王が玉座に腰を下ろす。準備が整っているかを側近に確認を取らせた後、小さく手を上げた。
合図を受けて謁見の間の両扉が開く。サフィン王国の使者が中に入ってきた。彼らは一定の場所で歩みを止めると一斉に膝を曲げて顔を伏せる。
「此度はサフィン王国の支援に感謝する。長旅で疲れておろう。楽にせよ」
ルビリア国王が声を掛ければ、使者たちは顔を上げて体勢を戻す。
その様子を壁際で眺めていたヘルガは、ある人物に目を奪われた。それは使者の先頭に立つ見目麗しい青年だ。横顔しか見えないがきめ細やかな白い肌に彫りの深い顔立ち。
如何にも自分好みの容姿をしている。滲み出る気品から彼がこの中で最も身分の高い人物だとすぐに分かった。
ヘルガは熱い眼差しでその横顔を見つめていたが、奥にいる人物を見て目を見開いた。
(なんでサフィン王国の使者の中にミアがいるの!?)
瞼を擦ってもう一度確認してみたが、あれは間違いなくミアだ。自分が気に入った青年の隣に立ち、ヘルガですら袖の通したことのない青いシルクのドレスを着ているではないか。呆気に取られていたら、ミアの隣にいる青年が口を開いた。
「お久しぶりです陛下。ユース・サフィードが拝謁いたします」
事前に誰が来るのか聞かされていたのでヘルガはユースがサフィン王国の王子だと気づいた。その美しさたるや、これまで出会った男たちの中で一番だ。
(あれは極上の美青年だわ。どうにかしてお近づきになれないかしら)