追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
「ミアはお茶を淹れるくらいしか能が無い子です。ユース様の妻なんて務まりませんわ。そもそもあの子が精霊師というのも信じられません」
ヘルガが小馬鹿にするように鼻で笑う。ユースは顎を引いた。
「ミアの精霊から教会でどんな扱いを受けていたのかすべて聞いている。特におまえはミアを虐め、自分がすべき回復薬を途中まで作らせていたんだってな」
図星を突かれたヘルガは声を呑んだ。ふるふると肩を震わせて怒りの炎を燃やす。
だが、ユースの前なのを思い出してすぐ笑みを貼り付ける。
「その精霊は嘘を言っています。ミアは悪知恵の働く子ですから、恐らく精霊に頼んで殿下に自分が惨めだったと伝えるように頼ん……」
「さっきも言ったはずだ。私の妻を愚弄するな!」
「ひぃ」
ドスの利いた声で凄まれたヘルガは悲鳴をあげた。
「二度とミアに近づくな。もし近づいたらただでは済まない」
さっと風が吹き、側にあった木から落ち葉がひらひらと舞う。ユースはヘルガの目の前で、ルプの力を使って落ち葉を粉々にした。
顔を青くしたヘルガは首を縦に振るしかできなかった。彼女の返事に満足したユースは、話は終わったと言うように颯爽とミアの元へ歩いて行く。
「ミア」
ユースに気づいたミアは幸せそうに笑っていた。二人は仲睦まじい様子で互いの手を取り、ゆっくりと歩き出す。
中庭から二人の姿が見えなくなった後、壁となっていた風がやんで、足に絡まっていた蔦もなくなる。ヘルガはその場にへたり込んだ。先ほどの光景が目に焼き付いて離れない。
(あれは私の叶えたい夢よ! どうして光魔法も使えないあの出来損ないが手に入れられるのよ!)
聖女になって身分の高い男に愛され結ばれる。それがヘルガの追い求めてきた夢だ。
ミアは聖女ではないけれど、それに匹敵する癒やしの力を持つ精霊師。自分が望んでいたものすべてを手に入れている。それが悔しくて悔しくて堪らない。
「いやああああ!」
どうすることもできないヘルガは金切り声を上げるしかなかった。