追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜

第8話 先に恋に落ちたのは


 ◇

 ユースは貴賓室のソファで寛いでいた。長い脚を組み、肘掛けに肘をついて頬を支える。
 会合も無事に済み、晩餐会をこなせば今日の予定は終わる。
「あと数日は滞在するが、初日で欲しいものが手に入ったのは嬉しい誤算だな」
 懐から取り出したのは一通の手紙。差出人はグランシア正教会の総主教で、内容はヘルガを聖女に選出しないという一文と署名が入っている。

 これは秘匿とされているが、ルビリア王国は光魔法の要である聖女が病に伏せっている。そのため、同盟国であったサフィン王国に回復薬は回ってこなかった。
 また、供給が不安定な中で魔物討伐に挑まなくてはならず、その結果死傷者の数は例年の倍になり、聖女候補の力を補填しても状況は改善されなかった。赤い星という不幸も重なり、ルビリア王国の内部はボロボロだった。
 ユースはそこにつけ込み、ミアの薬を渡す代わりにヘルガの未来を潰す約束をルビリア王に取り付けたのだ。

「あの女が聖女になれば、この国の教会はまっとうに機能しなくなる」
『バウ』
『メェ〜』
 ユースの言葉に同意するように現れたのはルプとアリエスだ。ユースは二人を見つめてから頭を下げる。

「二人とも協力してくれてありがとう。お陰であの女に引導を渡せた」
 ユースは手紙を大事に懐にしまい込み、人差し指を口元に当てる。
「先ほどのことは胸に留めておいてくれ。くれぐれもミアには話さないように」
 事実を話したら、きっとミアは悲しむだろうから。
(初めて出会った時もそうだった)
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