追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜

 ユースがミアと出会ったのはつい最近の話ではない。六年前、二人はネビュラの森で会っている。
 当時のユースは護衛も付けず、ルプと二人だけで国境の守りが万全かを見て回っていた。
 その理由は、ユースの髪色が両親のどちらにも似ていなかったからだ。母が平民出身の精霊師だったため、それを良く思わない貴族から「ユース王子は不義の子」だと根も葉もない噂を流された。周りの声に耐えかねたユースは、国境の見回りをするという名目で王宮を飛び出した。そして各地を回り、最後に辿り着いたのがネビュラの森だった。

 ネビュラの森は霧深く、普通の人間では迷ってしまうが精霊師は違う。契約している精霊が道を教えてくれるのだ。
 国境を目指し森の中を進んでいくと、ユースはアリエスを連れたミアと出会った。服装からすぐに平民だと分かったが、ミアの方はこちらの正体に気づいていなかった。
 心細かったのか、ユースを見つけたミアはにこにこと笑いながら話し掛けてくる。サフィン王国側にしか咲かない薬草を探しているようだったので手を繋いで一緒に取りに行ってあげた。

 道中いろんな話をしているうちに、ユースはうっかり自分の身の上を話してしまった。もちろん王族という部分は伏せたけれど、どうしてミアに話してしまったのかは分からない。
 きっと母が平民出身の精霊師だったから、目の前にいるミアと重なったのかもしれない。何より、自分を知らない誰かに話を聞いて心を軽くしたかった。
 ミアはユースの話を静かに聞いていたが、突然「違う!」と叫んだ。その声が想像以上に大きかったのでびっくりしたのを今でも覚えている。
 ミアは頬を膨らませていた。
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