追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
『髪色だけで親子じゃないなんておかしいわ。親子なら似ているところは他にもあるわよ。周りの人たちはただ悪口が言いたいだけ。お兄さんは真に受けちゃだめ。だってお兄さんの両親はきちんとお兄さんを愛しているもの』
ミアはユースが身に纏っている外套を無遠慮に掴んで捲る。内側の裾には、古代文字がびっしりと刺繍されていた。後から知ったことだが、これは子供の無事を願うまじないだった。
『お兄さんが本当に不義の子なら、こんなにおまじないはしない。悪い噂に惑わされて両親との溝を深めないで』
ユースはハッとした。噂を気にするあまり、両親と距離を置いていた。それどころか、一番信じなくてはいけない人を疑っていた。
今からでも関係を修復できるだろうか。そんな不安が心の奥底からせり上がってくる。俯いていたら、ミアが両手を握ってくれた。
『大丈夫。お兄さんの両親だったら絶対仲直りできるよ! 怖いかもしれないけど二人と話してみて』
ユースの心が大きく跳ねる。両親以外の誰かに叱られて心配されるのはこれが初めてだ。
心が温かくなる経験を初めてしたユースは、もっとミアと話がしたいと思った。
精霊師は数が少ないので調べればすぐに会いに行ける。そう思っていたけれど、彼女が家に帰ると言って指した方向はサフィン王国とは逆のルビリア王国だった。
精霊師はサフィン王国にとって貴重な存在。それがルビリア王国にいるとなれば、父は必ず保護するよう動く。だが、ミアはまだ小さい。この年で親と引き離すのはどうも忍びない。
ユースは、もう二度とここへは来ないようミアに約束させた。他の精霊師に気づかれたら、絶対にサフィン王国へ連れて行かれるから。
(君が成長したら迎えに行ってもいいかな……)
ユースは外套の留め具だった白蝶貝を外し、紐を通してミアに贈った。いつか自分が立派になって、ミアを迎えに行くと密かな誓いを込めて。