追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜
ヘルガはテーブルにある灰色の魔法石を一つ自分の方へと引き寄せて魔力を込める。
魔法石はたちまち青色へと変化した。
「はい、手伝ったわよ。後は自分で頑張ってね」
「えっ?」
これで終わりなのかと、ミアは目を瞬く。
一つだけ魔力補充をしてくれたがまだ二十八個は灰色のままだ。
魔法石とヘルガを交互に見ていたら睨まれた。
「何? 手伝ってあげたのに文句あるの?」
「いえ。……ありがとう、ございます」
本当は残りの魔法石もと言いたいところだが、ヘルガに気圧されてそれ以上は言えなかった。
ミアの返事を聞いたヘルガはにっこりと笑みを浮かべる。
「どういたしまして。あと二時間で作業が終わらなかったら、回復薬作りを倍にするから」
昨夜から作業をして魔力を込められたのが七十一個。なのにあと二時間で残りの魔法石すべてに魔力を補充するなんて到底不可能に決まっている。
絶句していたら、ヘルガが「それから」と付け加えた。
「終わったらお茶を持って報告にくるのよ。お茶はおまえの唯一の取り柄なんだから」
ヘルガはミアの絶望の表情など気にも留めないで颯爽と工房から出て行った。