追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜

 嵐が過ぎ去った工房内はしんと静まり返る。足音が遠のいたのを確認したミアは頭を抱えて呻くように声を上げた。
「魔力も残ってないし、そんな短時間で終わるわけないでしょ!」
 体力の限界でへなへなとその場に座り込む。
(これ以上頑張ったら、絶対に倒れる)
 先ほどまでふわふわしていた頭がズキズキと痛み始めている。目の前もぐらぐらと揺れて気持ちが悪い。

(ただでさえ回復薬の需要が増えて遅くまで作業しているのに。これ以上増やされたら二十四時間フル稼働で、確実に過労死してしまうわ)
 とはいっても、この教会にミアを助けてくれる者はいない。

 他の修道士や修道女は魔力持ちではないので手伝ってもらえない。皆、ミアがこき使われているのを気まずそうに見ているだけ。
 結局ツケが回って苦しい思いをするのはミアだ。だったら、未来の自分を笑顔にするためにも踏ん張らないといけない。

「少しでも終わらせなきゃ……」
 よろよろと立ち上がる。すると、頭の上で微かな風を感じた。
 天井を仰ぐと、身体にいくつもの花を咲かせている羊が浮遊している。

『メェ~』
「アリエス!」

 どこからともなく現れたのは、ミアのたった一匹の友達、精霊・アリエス。彼とは十歳の時に出会った。
 普通の羊より小さく、ミアが抱きしめるのに丁度いいサイズをしている。くるりとした角はチャームポイントだ。
< 6 / 34 >

この作品をシェア

pagetop