追放シスターは王子の一途な恋に気づかない〜癒しの精霊師になったので今日もせっせと薬草茶を淹れます〜


「貰った薬草でヘルガ様用に美味しい薬草茶(ハーブティー)を淹れるわね」
 お茶を淹れるため、ミアは下ろしていた茶色の髪を高い位置で纏めあげた。髪留めの白蝶貝がきらりと光る。
 ヘルガはミアのお茶を淹れる腕だけは高く買ってくれている。七歳の頃から魔法道具店に来るお客さんにお茶を振る舞っていたので薬草をブレンドするのも得意なのだ。
「聖女選別で不安だろうから、心が落ち着くものが良いわね」
 ミアは鎮静効果がある薬草を中心にブレンドすることにした。

 お湯を沸かしてからポットとカップを温めるために湯通しを行う。その間に今回使う薬草を決める。
 薬棚には乾燥させた様々な薬草が瓶詰めされて並んでいた。
 最初に手を伸ばしたのはオレンジフラワーだ。美容効果は高く、フローラルな香りは緊張をほぐしてくれる。
 そして次に手に取ったのはジャーマンカモミール。
『母なる薬草』とも呼ばれているそれは心と身体に優しく、比較的飲みやすい。
 二つの瓶を小脇に抱えてテーブルに戻ったミアは、それぞれティースプーンで一杯ずつ掬って温めておいたポットに入れていく。

「あとはアリエスから貰ったリンデンね。――アリエスお願い」
『メェ~』
 浮遊していたアリエスがミアの呼び掛けに応えてテーブルに降り立つ。
 アリエスがリンデンに額を付ければ、途端に彼の丸い角が黄金色に輝き始める。リンデンは一瞬で水分が抜けて乾燥した。

 何故乾燥させるのかといえば、乾燥させた方が新鮮な薬草よりも効果効能が数倍に跳ね上がるからだ。あと、保存もできるので長く使える。
「ありがとう」
 手に取ってみると、リンデンは水分が抜けてパリッとしていた。
 ミアはリンデンを細かく砕いてポットに入れ、お湯を注いで蓋をする。

 蒸らしている間にヘルガの自室まで持って行けば丁度いい飲み頃になるだろう。
「アリエス、今日はいろいろ手伝ってくれてありがとう。本当に助かったわ」
『メェ~』
 ミアはアリエスにお礼を言って頭を撫でた後、お盆にティーセットを載せて工房を後にした。
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