悪役令嬢に剣と花束を
朝になって、森のなかにある道へと戻った。
襲われたところからはだいぶ離れているため、見つかる心配もない。
今の内に急いで自国へ移動していたが、曲がりくねった森の道の先にひとり男が立っていた。
今まで感じていた視線とたぶん同じ。立ち振る舞いだけでスゴ腕だとわかる。
躊躇なく地を蹴って、暗殺者とみられる男に接近し、数回、切り結んだ。やはりかなりの強者……。
「キャッ」
一瞬、背後でした声にカラダが反応し、暗殺者の暗器が頬をかすめた。
「だから言ったのだ。悪く思わないでくれって」」
「くそっ……待て」
声が重なる。まったく同じ声が前後で響く。真っ暗になっていく視界と沈んでいった。
──生きている。
目を覚ましたら、太陽は真上を通過して傾き始めている。暗器に毒は仕込んでいなかったみたい。麻酔薬かなにかが塗られていたんだろう。
不覚を取った。ひとりじゃなく、ふたりもいたなんて思いもしなかった。あの気配、動き……双子だと思う。
すぐさま隣国へと引き返す。目星はついている。十中八九、大富豪バゲイラが雇った殺しの専門家だ。
本来ならここで棄権しても誰にも非難はされないだろう。でもボクはレイシアを助け出す。