悪役令嬢に剣と花束を


「ここは……」

「起きたでゅふか?」

「バゲイラ殿」


 窓のない湿った空気が漂う部屋、ランタンの灯りでレイシアはかろうじて少し離れたところにいるバゲイラを確認できた。


「私を拘束してどうするつもり!?」

「おや? 清楚なお嬢さんごっこはやめたでゅふヵ?」

「うるさいわね、カエル男。はやく私の縄を解きなさい」


 両手、両足に鋼鉄でできた枷が嵌められている。


「こぉ、んのぉぉぉぉ、スケベじじぃ~~ッ」

「でゅふ? なにか勘違いしているのではないでゅふヵ?」


 バゲイラが手元にある蝋燭に着火器で火を灯すと彼の手元にあるものがはっきり見えた。


「レイシアちゃんの〝肉〟なんて最初から興味ないでゅふ」


 バゲイラが座っている前にあるテーブルには人間の〝皮〟が並べられていた。


「バゲイラ様」

「なんでゅふヵ?」


 バゲイラとレイシアの中間あたり、隅の壁に黒い影が滲んだかと思えば人のカタチに変わる。


「契約の延長はされますか?」

「ふざけるなでゅふ」

「……どういう意味です?」


 肩を震わせるバゲイラは大声で黒いフードを被った男を叱責する。


「レイシアちゃんの()に傷をつけてよくもそんなことが言えるでゅふね? 契約は打ち切り、報酬も最初の額しか払わないでゅふ」


 黒いフード被った男は動じた様子もなく返事した。


「わかりました。ではひとつご忠告いたしましょう」

「早く言えでゅふ」

「契約額を吊り上げるためにあえて護衛の男を生かしたまま放置しました」

「ふん、なにかと思えば」


 鼻で笑い、もう用は済んだからさっさと立ち去るがいいでゅふ、と吐き捨てるように言うと黒いフードの男は闇の中へ溶け込みながら、あることを口にした。


アレ(・・)を怒らせたら我々(・・)でも勝てるかどうか……」



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