悪役令嬢に剣と花束を

「ミカ・ローレンジュを上級騎士へ任命する」


 約1か月後、トレンチノ伯爵の館の中でボクは上級騎士の叙勲を受けた。ボクの功績は国王に知らされ、トレンチノ伯が国王に代わり、儀式を行った。


 上級騎士は身分としては土地も爵位もないが、伯爵の代わりに騎士たちを率いることもできる立場にある。


 数か月ほど、辺境の森に巣食っていた魔獣を討伐の遠征から帰還すると、街が恐ろしく荒れていた。


 レイシアの悪い噂ばかりが聞こえてくる。気に入らない侍女を処刑したり、高価なものを買い集めたりと昔の残忍で高飛車な彼女に戻ったと伐隊の中でも噂が広がり始めている。


「アナタが責任者? 何か月も留守にして騎士として失格だわ。罰として領民から金貨を10万枚かき集めてきなさい」


 本来国王の意向に従うべきところを彼女の一存で騎士見習いへと降格された挙句、屋敷から追い出されてしまった。


 彼女の変わりようはいったい? あの日ボクとたくさん話して笑いあった彼女とはまるで別人みたい。


   ──別人?


 そう、彼女はボクが愛しているレイシアとは違う……。


 ボクは頼る伝手(つて)もなく、やむなく遠く離れた都市にあるダンジョンで金貨を稼ぐために冒険者業を始めた。


 この大陸で、もっとも有名で悪名高き迷宮「黄泉の魔窟」──常に魔獣がダンジョンの中で生まれ、魔獣が押し寄せるダンジョンブレイクを有史以来、幾度となく起こしているとても危険な迷宮。


 だけど問題なかった。最下等級である鉄等級から始めて5か月くらいで最上位である白金等級まで一気に駆け上がった。


 複数の別の国から仕官のお誘いも受けたが、ボクはすべて断り、トレンチノ伯は治めるトレンチノ領へと帰った。別人のようになってもボクは彼女を……レイシアを愛しているから。







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