Secret Baby
Everybody Hurts

 私は、生まれてから小学生になるまで、東京で暮らしていた。
 当時の記憶など殆どないが、ある日、遠くの家まで連れて行かれた。
 そこでは、見るからに頑固爺さんといった感じの人が、
「この恥知らず!お前には二度と家の敷居を跨がせんぞ!」
 怒鳴り散らしながら、私を連れた母に塩を撒いたことだけは、かなり鮮明に覚えている。
 少しあとになって、その人が母方の祖父だということを知ったのだが、それは祖父の葬儀の時のことだ。
「お父さんが亡くなったことだし、メルちゃんを連れてうちに帰ってきなさい、ね?」
 祖母が言い、母は涙を流しながら頷いていた。
 あの涙の意味を、私は今も知らない⋯⋯。

 小学校に上がる前、母と私は、今の家で暮らし始めた。
 東京郊外から県庁所在地へ移ったこともあり、そこまで極端に環境が変わったとは感じなかった。
< 12 / 33 >

この作品をシェア

pagetop