護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

 かなり衝撃を受けたようだ。わなわなと震えているが、うれしさを隠しきれずに頬は緩んでいる。

「どうぞ。私は一つで十分ですから」

 やさしい笑みを向けるマクスに「ほんとに一つでいいの?」と確認する目がなぜか切なげだ。
 マクスは「もちろんです。なんなら私の分もあげますよ」と返している。

「ありがとう、マクス。でも一つは食べてほしいわ。ご馳走したいのだから。では、注文します!」

 エリアナはこのときのために『注文の仕方』の勉強をしてきたらしい。張り切って店員を呼び、オーダーを告げて満足そうにしている。

 ──こんな穏やかな気分はいつぶりか。

 将軍となって大公を継いでから気の休まるときがなかった。元聖女ゆえだろうか、エリアナと一緒にいると冷えた心があたたかくなる。

 提供された五種類のスイーツは、色の見えないルードリックにも豪華に思えた。エリアナに三つ選んでもらい残りをひとつずつ取る。

「おいしい~~~っ」

 スイーツを食して手のひらで片頬を抑えている彼女の周りに花が飛んで見える。

 ──ほんとうに幸せそうに食べるのだな。ビクスの報告通りだ。

「殿下もお食べください。すっごくおいしいですよ」

 ちまっとした手で持つカトラリーは扱いづらい。
 幼児姿で出かけると決めたのを後悔するが、「殿下、ほっぺにクリームついてますよ」と、エリアナが楽しそうに世話しているからまあいいかとも思う。
 大公の姿では気軽に接してくれないだろうから。

「忍びなんだ。今日は殿下ではなく、ルードと呼んでくれ」

 エリアナが固まってしまった。
 そんな恐れ多いことはできないと考えているのがありありと伝わってくる。

「で……デンカという名前の作戦はいかがでしょう?」

 しばらく経って、おそるおそる出された提案に噴き出す。

「妙な名前だな」
「愛称とお考えくだされば」
「仕方ないな。いいだろう」
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