護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
和やかにスイーツを食べ終えたとき、にわかに店内が騒がしくなった。
「この私よりも大事な客が来ているというのか!?」
──大声で無粋だな。
「何事でしょうか。見てきます」
険しい顔つきのマクスが立ち上がりかけると、「おやめください!」と店員が引き留める声がした。つかつかと靴音がする。
──足音近いな。ここにくるつもりか。
バタン! と戸を開けたのは茶髪にそばかすのある貴族令息だった。後ろに令嬢らしき姿が見え隠れしている。
「ははっ、店員が口を割らず、どんな客かと思えば、社交界で会ったこともない下級貴族の家族ではないか。私はチャライン侯爵家のエラシだ。ここは我らが使用させてもらう。譲り給え」
「っ、このお方をどなただと!!」
マクスが腰の物に手をかけて身構え、エラシが気迫にたじろいだ。
「マクス」
──極力争いは避けるべきだ。
マクスはルードリックの意をくんだのか、ぐっと唇を結び腰の物から手を離した。
「ははは! エラシ・チャラインの名に怖気づいたのだろう。しかたない。剣を抜こうとしたのは許してやる。私は寛大だからな!」
「まあエラシさま、素敵ですわ。でもあのお方たちが使用しているんですもの。下級な身なのに無理して贅沢を楽しんでらっしゃるのですわ。奪ってはお気の毒ですから、せっかくですけど今日はあきらめましょう」
かなしげに顔を伏せる令嬢だが、ちらちらとこちらを見る様子は「出ていけ」とあからさまに訴えている。
「ああ、モブエンヌ! 泣かないで待っててくれ。あいつらなら、私が今すぐ追い出してみせるよ」
「エラシさま……」
「モブエンヌ……」
抱き合い、あきれるほどに芝居がかっている。ほんとうにチャライン侯爵家の子息なのか疑わしいが、確かめるすべもない。
ぽかんとして状況をみていたエリアナだったが、ひそっと話しかけてくる。