護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

『満足しましたし、もう出ましょう?』

 マクスと二人でうなずいた。

「あの、ちょうど食べ終わりましたから、どうぞ」
「ほらみろ。モブエンヌ。下級貴族どもが私の威光に恐れているぞ」

 エラシはわはははと笑い、モブエンヌはひたと顔を寄せてにやっと笑った。

「エラシさまに勝るお方なんていませんわ。ほんと頼りになるお方」

 エリアナがそっとルードリックの手を取った。微笑む彼女からは負の感情は伝わってこない。

「大変、申し訳ございません」

 会計場では店員が平謝りだ。
 当然だろう。彼らはアルディナル大公からの予約だと知っている。大公本人の姿はなくても丁重に扱うべき客なのだ。

「お代はいりませんので、どうかお怒りをお収めいただければ幸いです」

 そう申し出たのは店主だが、エリアナが待ったをかける。

「とんでもないです! おいしくて楽しい時を過ごしたのですから、きちんとお支払いします。おいくらですか?」

 きんちゃく袋を手に迫り、支払いを要求している。店主が狼狽してマクスに助けを求めているが、彼はエリアナの味方だ。
 はたからみれば、どちらが被害を被ったのかわからないだろう。

 そのやり取りを見ながら、ルードリックは人差し指をついっと動かした。
 すぐにテラス席から「ぐわあぁ、痛えっ」「きゃぁ」と聞こえてくる。

「店員! なんだこの席は! 座るとビリッとするぞ!」
「そんなはずはございません」

 試しに店員が座っても痛みは感じない。
 小さな雷撃大公の小さなおしおきである。

 ──このくらいにしておこう。

 支払い問答に勝利したエリアナが、勝ち誇った顔できんちゃく袋をポケットにしまっている。

 ──わりと頑固なのだな。

「殿下、次に行きましょう」
「どこに行く?」
「そうですね、歩きながら決めます」

 ドレス、アクセサリー、一般的に女性が好む店は思い浮かばないようだ。
 エリアナとのデートはまだまだ続く。目的もなくそぞろ歩きするのも悪くない。

「解呪師殿の仰せのままに」

 ルードリックは柔らかい手をきゅっと握った。
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