護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

「餌食ってどういうことですか?」

 知らないふりしてすかさず問いかけた。

「同じクラスのグレッタ男爵令嬢なのですけど、婚約者のいらっしゃる殿方に馴れ馴れしく話しかけて、腕を組んだりしてべたべたするのですわ。それも上級な殿方ばかり」

 口にするの汚らわしいとばかりに、ほんとうに嫌そうに語る。

「まるで娼婦のようなふるまいに苦言を呈するのですけど、『ぷっ、嫉妬ざまぁ。魅力なしの僻み、おっつ~』と意味不明なことを申してあざ笑うのです」

 彼女は手にしているハンカチをぎゅうっと絞った。きれいな刺繍がゆがんでしまっている。

「あまりに意味不明だったので平民の子に尋ねたら、市井で流行っている若者言葉だと教えてくださったわ」
「わたくしたちの前ではそんな態度なのですけど、殿方の前では『いじめられた』と泣いて被害者ぶるのです。まともに注意した方が殿方に責められる始末。もう呆れてしまって、誰もかまわなくなりました」

 よほど腹に据えかねているのか、彼女たちは怒涛の如くに語ってくれる。

「おかげでますます調子に乗ってしまって」
「婚約者の方々がお気の毒でたまりませんわ。臥せってしまったお方もいますのよ」
「わたくしたちには、どうにもできないのが悔しいのです」
「あっ、でもただおひとり、アマンダさまだけは毅然と注意を続けていらっしゃるでしょう」
「アマンダさまは女生徒をまとめる力をお持ちですもの。本来なら生徒会の役員になれるお方ですわ。それをグレッタが追い出したのでしょう」

 アマンダは公爵令嬢で、皇子殿下の婚約者候補として名が挙がる人だという。

 ──グレッタさんは、なんのために婚約者のいる殿方を篭絡しているのかしら?

 恋愛ごとに疎いエリアナには理解不能だが、普通の感覚でないことは確かだろう。

 ──いつどうやって呪物を使ってるのかしら。
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