護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

「グレッタはそんな子ではない! 清純でいじらしく、守ってあげねばならない子だ! 彼女に対する罵詈雑言! 婚約者と言えども許さんぞ!」

 怒声をあげているのは、肩までの黒髪とメガネが特徴的な人。

 ──ラベル宰相さんのご子息だわ。

 彼は数人の男子生徒と一緒にいる。赤毛短髪の皇宮騎士団長の子息の姿もあった。

「私よりも彼女を信じるなんて、あなたは変わってしまったわ。いい加減に目を覚まして!」

 涙をこらえているような声音は、婚約者の令嬢だろう。数人の女子生徒が彼女を支えるようにしている。

「このままでは婚約破棄してしまいそうね」
「おふたりは幼馴染みで、ずっと仲睦まじい姿をお見掛けしていたのに」
「冷静で頭脳明晰で、あんなふうに声を荒げるお方じゃなかったのに、いったいどうしたんだ」

 周りでひそひそと交わされる内容から、宰相子息がグレッタのせいで豹変したことがわかる。
 気の毒すぎて、エリアナまで胸が痛くなる。
 それにエリアナの脳内では、ラベル宰相が『どうかどうか婚約破棄だけは!』と懸命にお願いしてくる。
 指先だけでも体に触れることは可能だろうが、今は人目がありすぎる。まだ解呪師だとばれるわけにはいかない。グレッタに警戒されたら解決は難航するだろう。

 ──ごめんなさい、宰相さん。もう少しだけ待って……。

 親交を深めてきた婚約者より、出会って間もないグレッタの言葉を信じるのは『洗脳』だろうか。
 でもコール伯爵のように自我を失っているほどではない。

 ──この呪いは……って、あれ? なんか子息の上に文字が……?

 子息の頭の上に浮かんでいる赤い靄がふわ~っと動いて形を整えていき、赤い文字となった。

 ──えっ、え? これって……。

 かなりショッキングな字面に唖然としてしまう。
 困惑して「ね、マクス……」と呼びかけたが、ひとりの女生徒の声でかき消されてしまった。
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