護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
深みがありつつも通る声はルードリックだ。頼りになる人が現れてエリアナはホッとし、闘気を収めたマクスが背後に移動してきた。
黒獅子騎士団の制服を身にまとった大公殿下の登場に、高圧的だった子息たちが怖気づいている。
「きみはラベル宰相の子息だろう。この騒ぎの中心はきみか?」
静かな物言いだけれど、破棄を込めたそれは空気を凍り付かせる。
「申し訳ございません、大公殿下……失礼します」
宰相子息はぐっと唇を結び、逃げるように去っていった。
「一瞬で場を収められたわ。素敵ね」
「さすが雷撃の殿下だ」
尊敬や畏怖の声がするなか、ルードリックは冷たい覇気を身にまとったままだ。
近寄りがたくて恐ろしい、出会った時の印象そのままの姿でエリアナの方に近づいてくる。ゴゴゴゴゴと放たれる怒りの気が目に見えるようだ。
「あとで俺の部屋に」
そう小声で伝え、ルードリックは去っていく。
──声音まで怖かったよ……。
ルードリックはお怒りモードだったけれど、肩のあたりで浮かんでいたちび獅子のきゅるんとした赤い目だけは、この場での唯一のいやしだった。
──陛下、やっぱり殿下は〝おとり〟になれそうもありません。
恐ろしすぎてグレッタも近づけないだろう。
「あの、助けていただいてありがとうございます。アマンダ・ルクレと申します」
「私はアルディナルからの留学生のエリアナです。こちらはマクスです」
「アルディナルからの……。申し訳ございません。わたくしも彼女たちも、大変心乱れておりますので正式なお礼はのちほどに。失礼いたしますわ」
アマンダはきれいな所作で礼をして婚約者の令嬢たちのもとに行き、慰めの言葉をかけている。
公爵令嬢としての気品と気遣い、声を荒げる者に立ち向かう勇気。皇子妃にふさわしい人だ。
「エリアナさま、殿下のところへ行きましょう」