護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
帝国アカデミー上級子息篭絡事件・その二・マクスの騎士道精神
『まずはマクス。五日後に開かれるアカデミーの剣術大会に参加して優勝しろ』
ルードリックの命にマクスはびしっと姿勢を正した。
『御意。黒獅子の誇りにかけて、必ず優勝いたします!』
その剣術大会が、今行われている。
競技場に響き渡る歓声の中、どんどん試合が進んでいく。
ルードリックは大公殿下のため、観戦席はVIPなボックス席である。エリアナもアルディナルからの留学生なので同席とあいなった。
大会に参加するのは剣術に自信がある者のみで、解呪対象のうちでは宰相子息だけが不参加だ。
マクスはほぼ一瞬で相手の剣を打ち落として、圧倒的な強さを見せつけている。
突き上げている剣の柄に結ばれている花柄のハンカチはエリアナが送ったものだ。
マクスが照れっとした顔で「ハンカチをくださいませんか」と望んだので「はいっ」と渡したものである。
あとで意中の殿方の勝利と無事を祈って渡す習慣があると知って「意中?」と動揺したのだが、「それは応援している者ということだ」と、ルードリックが解説してくれたので今はそれで納得している。
「エリアナ、皇子の出番だ」
いよいよ皇子殿下の姿が拝見できる。
対戦表では解呪の対象者三人がシード枠にある。
皇子殿下が登場すると、タタタと駆け寄ったグレッタが観客席の塀越しにハンカチを渡している。
頬を染めて渡す姿はほほえましくも見えるが、エリアナの目には呪物の力がはっきりと見えた。
彼女から発せられている赤い文字『げぼくにな~れ』が、皇子殿下を捉えているのだ。
「はっ、見せつけるつもりか」
ルードリックの声は小さいけれど、嫌悪感をむき出しにしている。
観客席にいる多くの女生徒も同様だろう。試合前に渡すべきものを試合寸前に行っているのだから。
グレッタは剣の柄にハンカチを結ぶ姿を見つめて勝ち誇った顔をしていた。
「殿下、皇子殿下は『下僕五十八号』であられます」