護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

「さすがの性悪も皇子の篭絡には手こずったとみえる」

 現在進行形で呪いをかけられている皇子殿下の文字は濃い。

 ──でも呪物がわからないわ。

 力はグレッダ自身から出ているようにも見える。呪術師なのだろうか。

 皇子殿下は難なく勝利して剣を突き上げた。
 試合は進んでいくのだが、ルードリックの不機嫌具合がどんどん深くなっていき、エリアナはたらたらと冷や汗をかいた。
 これもグレッタが観客席をざわつかせることをしでかしたからである。
 なんと彼女は騎士団長子息と公爵子息にもハンカチを渡したのだ。

「あ、もうハンカチが……。これじゃぁ私なんかのハンカチは結べないわね」

 しおらしくしゅんとして涙し、おろおろした子息が結ばれていたハンカチを外してしまうのだ。

「もちろん、きみがくれたハンカチを結ぶよ。きまってるだろう?」

 先に結ばれていたのは婚約者のハンカチだろうに、グレッタのハンカチを結んだ剣をほこらしげに掲げるなど不愉快極まりない光景だった。

「敬愛してやまない我がグレッタ嬢に必ず勝利を捧げる!」

 そんなふうに宣言するのだから、婚約者の方々の心情を思うと言葉にならない。

「エリアナ、あとで手筈通りに」
「はいっ、おしおきですね! お任せください!」

 試合は順当に解呪対象者とマクスの四強となった。
 これから彼は騎士団長子息との対戦だ。
 絶対に勝つと信じてるけれど、万が一負けてしまったら……そう思うと声を出さずにいられない。

「マクス、頑張って!!」

 渾身の応援にマクスが気づき、さわやかな笑顔で剣を掲げた。
 その姿に観客席から大きな歓声が起こる。

「マクス! マクス! マクス!」

 会場中がマクスの応援団と化し、騎士団長子息がおろっとしているのがわかる。今の彼は完璧に悪役だ。
 試合開始の合図がなされて会場が静まり、両者が構えあう。
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