護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

「ようやく戦えるな。安易な言葉で篭絡された〝下僕一号〟よ」
「下僕とはなんだ!? 無礼な奴め! 貴様ごときが、この俺に勝てるかぁ!」

 勢いすさまじく振った彼の剣は届かず、目にも止まらぬ速さで振りぬいたマクスの剣が騎士団長子息の脇腹あたりを捉える。
 腹を押さえて呻き、うずくまる彼は戦闘不能となった。

「騎士道精神を失ったあなたは、私には一生勝てません」

 マクスがのたまい、騎士団長子息はぐうの音も出せずにごろんと倒れた。
 審判が勝利者の名をコールし、会場がマクスコールでわきかえる。
 立ち上がれない騎士団長子息はタンカで運ばれていくようだ。腹を抱えた格好のまま退場していく。

「手加減なしだ。真剣だったら胴体が二つに分かれていたな」

 あっさりとルードリックがつぶやき、エリアナは震え上がる。
 鎧があるのに胴体が真っ二つ!?
 今までは手加減していたということだ。黒獅子の騎士は強いと知ってはいたが、そこまですごいとは思っていない。

「数日は打撲の痛みで苦しむが、癒しの魔術を施されれば動ける」

 ──剣がレプリカでほんとによかった……。

 もう一つの準決勝、皇子殿下と公爵子息の試合は互角で数分を要し、皇子殿下の勝利となった。剣を掲げる彼の額に汗が光る。
 とっても素敵なのだろうが、エリアナにとってはどうにも滑稽な姿に映る。

 ──早く『下僕五十八号』の看板を外したい。

 決勝は皇子殿下とマクスだ。
 グレッタが食い入るように見ているなか、マクスはあっさりと勝利した。
 尻もちをついた皇子殿下の喉元に剣を突きつけ、審判の「それまで!」の声で会場が割れんばかりの歓声にわく。

「マクス、おめでとう!」

 優勝セレモニーでルードリックから月桂冠を授かり、観客席に手を振ってこたえるマクスをグレッタは恐ろしい顔でにらんでいた。
 おそらくハンカチを送った勝利の女神として脚光を浴びる計画だったのだろう。

 このあと夕刻からは勝利者をたたえるパーティが開催される。
 四強の選手は参加必須で、宰相子息も生徒会役員として出席するはずだ。
 準備してきたことを発揮するときだ。

「一気に解決しましょう!」

 エリアナはぐっと拳を握った。
< 117 / 134 >

この作品をシェア

pagetop