護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
でも〝殿下怖いです〟のセリフと同時に〝げぼくたち、こんなおんな、やっつけちゃって〟という赤い文字がざわざわとうごめいている。
──なにかしら。口になにか入れてる?
呪物を見極めようと注視すると、子息たちがグレッタを守るように囲ってしまったので口元が見えなくなった。
解呪対象たちはアマンダたちに威嚇の態度を取っている。
「アマンダ、口を慎め! 妹とはいえ、言って良いことと悪いことがある! 私がグレッタを優先するのは、彼女が守るべき存在だからだ! 皇子殿下の妃となるお方だぞ!」
公爵子息が怒鳴り、会場中がざわざわとしている。
「妃だと?」
「まさか、婚約してもいないのに」
「男爵令嬢じゃ釣り合わないだろう」
「あんなお方が妃になるなんて」
ひそひそと交わされる内容はグレッタ本人の耳にも届いているはずだ。
「殿下ぁ、あんなこと言われて、グレッタは悲しいですぅ。妃になるために、毎日すっごく頑張っているのにぃ。みんなひどいですぅ。嫉妬してるんですよぉ」
皇子殿下はしくしくと泣くグレッタの肩を抱き、「おまえたち良く聴け!」とのたまった。
「私はグレッタ男爵令嬢と婚約する! 不服のある者は正式な文書をもって意思を明確にするがよい! 私はいつでも相手になる!」
「殿下ぁ、グレッタ、うれしいぃっ」
抱き着いてにやっとするグレッタを眺めていたアマンダがわなわなと震えている。
グレッタの口が『ぷっ、いい気味』と動いたように見えた。
「もう我慢できませんわ。みなさま行きますわよ! 皇子殿下、お覚悟なさい!」
言いざまにアマンダは手を振り上げて、皇子殿下の頬をピシャンと叩いた。
同時に〝バチン!〟と解呪の音が響いて皇子殿下は倒れかけるも、踏ん張った彼の表情が見る間に変化していく。かすんでいた瞳がクリアになるような、なんならきらきらと輝いてもいる。