護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「えっ、人!?」
衝撃のあまりにエリアナはガバッと身を起こして、ガツンッと額を打ち付けた。
目の中で火花が飛び散り、目に涙がにじむ。
「痛ぁ~い」
両手で額を押さえて涙をこぼしながら痛みに耐えるエリアナの傍らで、声も出さずに悶絶している人がいる。
黒髪でがっちりとした体格の、黒い服の男性だ。
どうやら男性の顔のどこかと、エリアナの額がぶつかったらしい。
「ごめんなさい、私が急に起きちゃったせいですよね?」
あまりにも申し訳なく、おろおろと男性に声をかけると、悶絶していた彼は大丈夫だと言うようにひらひらと手を振った。
「……トーイ」
鼻のあたりを押さえつつ声を絞り出すようにして誰かの名を呼び、それに応えた男性がついっと近づいた。
黒くて長いローブを身にまとい、濃紺の髪を後頭部で束ねている。細身で一重の目がクールな人だ。年齢は三十歳くらいにみえる。
「レディファーストです。お嬢さん失礼しますよ」
男性は「手を退けてください」と言いながらエリアナの額に手をかざし、手にしている長い杖をトンっと床に打ちつけた。
頭の上にかざされた手のひらからホワ~ッとした柔らかい光が放たれ、額にあたたかさを感じてすぐに痛みが引いていく。
──すごい。聖力のような……。
「私は魔術師のトーイです。癒し魔法をかけました。まだ痛みを感じますか?」
「いえ、もう大丈夫です。トーイさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」