護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
──あっ、下僕看板が消えた! やったわ、成功ね!
「私はなにを……アマンダ公爵令嬢?」
皇子殿下が呆然としているが、自分がグレッタを抱きしめていることに気づいて慌てて放している。
「さあ、みなさまもお早く!」
「ええ、アマンダさま。かしこまりましたわ!」
「わたくしたちの思いの丈、とくと受け取りなさい!」
婚約者たちがそれぞれのお相手の頬をぴしゃんと叩いた。
アマンダと違って、渾身の怒りを込めた平手打ちは子息たちの体を揺らすほどに激しい。
加えて解呪の衝撃があるのだから、彼らは相当に痛い思いをしているはずだ。
──これが、おしおき。少しは彼女たちの憤懣が解消されたかな。
アマンダたちがはめている手袋は、エリアナがこれ以上入らないっていうくらいに解呪パワーを注入したものだ。
廊下事件のあとにルードリックは『婚約者たちに仕返しの機会を与えよう』と、悪い顔で提案したのだ。そこから生まれた解呪手袋である。
下僕の看板が消失した彼らは皇子殿下同様に呆然としている。毒気の抜けた彼らの顔はすっきりしていっそう美男子に見えた。
「俺はなにをしていたんだ?」
あれほどに激昂していた公爵子息が優しい表情で婚約者を見つめている。
「よかった……! もとに戻ってよかったですわ!」
うれしそうに微笑みながらも涙する彼女を、戸惑いながらも慰めている。
ほかの子息たちも同様だ。
悔しそうに爪を噛んでいたグレッタがポケットを探り、なにかを口に入れたのをエリアナは見逃さなかった。
──魔道具に入れて隠し持っていたのね!
小さな呪物であれば、エリアナでも見抜くことができない。
「殿下ぁ、どうしたんですかぁ? ほかの人たちもぉ……グレッタ哀しいですっ」
(げぼくにな~れ)
グレッタから呪いの赤い文字が連続して放たれている。そのぞわっとするような不気味な気配で、皇子殿下がたじろいだ。
「なんだ、きみは……」