護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
じりじりと後ずさり、嫌悪感をあらわにした。
「私ですよぉ、あなたの愛しいグレッタですわ」
(あなたは、げ・ぼ・く、でしょ。わたしをいつくしみなさい)
「無礼な。きみを愛しいと思ったことなどない」
皇子殿下はきっぱりと拒絶する。
「うそ、どうして効かないの……?」
エリアナの力で解呪されれば二度と同じ呪いにかからないのは、コール伯爵の件でわかっている。
なぜならその呪いが破壊されてしまっているから、病のように免疫ができたというべきか。
「こんなの、こんなのうそよ」
グレッタが事態を覚り、徐々に正体を晒していく。叫び、泣きわめき、罵倒する。誰も味方にならない。冷めた目で眺めるばかりだ。
「なんなの! 私のこと妃にするって、みんなの前で宣言したじゃない!」
皇子殿下に弾かれて行き場のなくなった呪いの文字がグレッタにまとわりつく。おぞましいほどに肌が赤くはれていき、ただれたようになった。
「痛い! なんなのよ、これ!」
それでも呪いの発信を止めず、無限に湧き出る〝げぼく〟の赤い文字が会場内を漂い始めた。
「みんなが危ないわ。マクス、お香をたきましょう」
「承知」
お香も解呪の力をこめたアイテムだ。煙があがり、バチバチと音が鳴る。どんどん呪いの文字を打ち消していった。
『エリアナがすべてをする必要はない』
これもルードリックの言葉から生まれた解呪アイテムである。煙が空間に満ちればその場にいる被害者が一気に解呪される優れものだ。
「バチバチ音は解呪の音ですか。爽快ですね」
マクスがすっきりした顔で空間を眺めた。お香はこれからも使用することになりそうである。
けれど、グレッタにお香の煙は効かないようだった。エリアナが直接呪物を解呪するしかない。
エリアナはグレッタに近づき、そっと両頬を覆った。
どんなにそっと触れようとも、バチン、と痛むのはもう我慢するしかない。
「もう、いい加減になさい」