護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

 パーティから数日後の地下牢獄。罪を犯した者が過ごす部屋。
 寒くて窓もなく、光源はろうそく一本のみの石ばかりの空間だ。

「どうしてよ! うまくいってたじゃない!」

 怒り狂ったグレッタは石壁をバシバシ叩いた。

「あの女のせいよ」

 生意気なアマンダとピンクの髪の女がなにかしたに違いない。
 ピンク髪の女に触れられた瞬間に、体が引き裂かれるような痛烈な衝撃に襲われた。失神して気づけばこの牢獄の中だった。

「皇子妃は目前だったのに! あの呪術師の言った通りにしたのに!」

 ぎりぎりと歯を噛み、ぎゅうっと罪人服を握りしめた。

 グレッタがその呪術師に出会ったのは一年前、花売りをしていた時だった。

『お嬢さん、人生を変えたいと思わないかい?』

 路上で話しかけてきた男はフードをかぶってて顔がよく見えず、胡散臭い奴だった。

『この飴を舐めながら会話すれば、相手はお嬢さんの下僕になるよ。そうすりゃ人生思いのまま。この世界のヒロインさ』

 たとえば相手が公爵家の子息なら、将来は公爵夫人になれる。
 貧乏生活から抜けられる。うまくやれば、すべての上級男性から愛されるヒロインになれる。
 皇子妃や皇妃までも夢じゃない。わくわくする話だった。

『今なら1ゴールドだよ』

 瓶に入った飴玉はたったの三個。それだけでほんとうにヒロインになれるのか。
 でも1ゴールドで人生が変わるなら……可能性があるのなら試してみよう。

 それまでコツコツ貯めてきたお金をかき集めて購入した。

『飴が必要ならまた買いにおいで』

 貴族に近づくには貴族にならねばならない。子のない男爵家の夫婦はちょろくてすぐに養子になることができた。
 けれど飴玉がなければすぐに効果がきれてしまう。何度も飴玉を購入し続けてやっとのことでアカデミーに入学し、上級の貴族子息を狙った。

 まずは皇宮騎士団長の子息。しょっちゅう剣術の訓練をしていたので、近づくのが簡単だった。

『離れてくれ。婚約者がいるんだ』

 最初は拒まれたけれど飴玉の効果は抜群で、すぐにグレッタの手に落ちた。
 次は宰相子息。昼休みは常に図書館にいるのを突き止め、ぶつかって話すきっかけを作れば簡単に手に落ちた。
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