護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

 婚約者の存在なんて知ったことではない。どんどん下僕を増やして、上級子息たちにかこまれて幸せになってやる。
 帝国中の上級子息がグレッタにかしづくのだ。財も愛も思いのまま、最高ではないか。

 婚約者たちやアマンダが苦言を呈してきたけれど、下僕たちに〝いじめられた〟〝足を引っかけられた〟と泣いて見せればすぐに彼女たちを叱ってくれた。

『ぷっ、ざまぁ。叱られてしょげてんの。ヒロインの私にかなうわけないっしょ』

 ずっと卑下されてきた身分の奴らを蔑むのは胸がすいて笑いが止まらなかった。

 公爵子息も簡単だった。目の前で転んでけがした振りすれば、あっというまに下僕に落ちた。
 でもなぜか皇子殿下だけは落とすのに時間がかかった。飴玉を何個も消費してようやく、ようやく下僕にできたというのに。

「グレッタ元男爵令嬢に禁錮百年を言い渡す!」

 禁止魔術使用罪、呪物使用罪、皇族愚弄罪、皇族傷害罪……グレッタの罪状は重く死罪にならないのが不思議だった。

『死罪は生ぬるい』

 アルディナルの大公殿下の一言がグレッタの明暗を分けたのだった。

 大公殿下。
 大人の魅力にあふれる麗しい姿。一目で気に入って下僕にしようと決めた。
 けれど飴玉が効かず、冷酷無比な目で睨まれると足がガクガク震えた。
『失せろ』とすごまれれば『殺される!』と感じて、二度と近づくことができなくなった。
 皇子殿下の威厳なんて比じゃない。あんな怖い人なのに、ピンク女は平然と近づいて笑顔で話していた。

「ほんとに何者なのよ。特別なのは私だけでしょ! ヒロインはこの私なのよ!」

 グレッタはぎりぎりと爪を噛んだ。
 食事は日に二回。パン一個と水だけ。虫が這ってネズミが出る。清潔環境は最悪。ずっとこの部屋から出られないのだ。

「私は悪くない! 悪くないんだから!」

 グレッタの叫び声は誰にも届かなかった。



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