護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

「ですが、彼女は杖も魔法陣も必要がない。ごく自然に力を操っている。加護……つまり皇帝陛下や大公殿下の力と同等かと」
「なんだと!? それならば彼女にも守護獣がいるというのか!?」

 スルバスが驚愕した顔でエリアナを見た。

「えっ?」

 ──守護獣ってなんなの。ズルイータ公爵令嬢にそんな大層な存在がいるとは思えないのだけど?

 そもそも内蔵している力がごく少量で、神殿の聖力試験を行っても反応しないレベルの量だと思える。
 エリアナが少ない力を絞り出して凝縮できるのは、幼いころから倒れるまで聖力を使わされたために培われた技だ。

 魔力ではなく聖力を使えるとばれてしまったら、望んでいる自由な第二の人生が歩めなくなるかもしれない。
 神殿のがんじがらめの規律とか奉仕とか清貧とか、もうまっぴらごめんなのだ。

 力を使うのが当然だと、誰にも感謝されず、ただエリアナだけが疲弊する日々。
 帝国の神殿に連れていかれても、この体に内蔵されている力の量では門前払いされるだろうけれど、危険な芽は摘んでおかねばならない。

「いません。守護獣なんていませんから。私は平凡ですから」

 あわあわと否定するも天幕内から向けられる視線は、畏怖と羨望が入り混じっているようだった。

「殿下に報告しなければ」

 スルバスが深刻そうにつぶやき、トーイと相談を始めた。

「記憶がなく、素性がわからないのは……」とか「殿下の判断を……」などと真剣に話している。

 そんな二人を横目に、エリアナはばったりとベッドに突っ伏した。

 ──ああ、もう、限界……否定する力もないわ……。

「エリアナ、どうした!? どこか痛むのか!?」

 スルバスの慌てた声がし、エリアナは力なく答えた。

「お腹……すきました……」

 お腹の虫が大騒ぎしている音を聞き、スルバスの顔がカチンと固まった。


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